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社長・部長エッセイ
【部長シリーズ第18回】企画管理部長:私たちは行動をコントロールされている!?
みなさんは車道の端に写真のようなペイントが施されているのを見たことがあるでしょうか。筆者はスポーツ自転車であるロードバイクでサイクリングするので、とても馴染みのあるマークです。白いペイントマークは「自転車ナビマーク」、青いペイントマークは「自転車ナビライン」と言うそうです。自転車に乗っている時このマークがあると、なぜ かこのマークの上やこれに沿って自転車を走らせています。警視庁HPでは『「自転車優先」等法令上自転車を保護する意味はありません』とありますので、これに沿って走らなければならない理由はありませんが、結果としてそのように行動しています。
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(警視庁HPより)
そして新型コロナウィルス感染症が流行してからは、一定の間隔で足跡マークが並んでいる場所が増えました。これはソーシャルディスタンスの確保を促すことが目的なのだと思いますが、特に強制力はないのにこのマークに従って列に並んだ方も多いと思います。
このような「仕掛け」に関する研究があり、その一つが行動経済学の分野で提唱されている「ナッジ(nudge)理論」と呼ばれるものらしいです。ナッジ理論について筆者は詳しく説明できないですが、”nudge”を辞書で引くと「(注意を引くためひじで)〈人を〉そっと突く[押す]」という意味があるそうです。まさに自転車ナビラインや足跡マークによっ てそっと行動を促されている感じがあります。
理論の提唱者は行動経済学者リチャード・セイラー氏で2017年にノーベル経済学賞を受賞しています。勉強不足の筆者では「これでノーベル賞?」と思ってしまいますが、ちょっと調べると効果は絶大だなと思いました。
象徴的で有名な事例は、アムステルダム スキポール空港の男性用便器に描かれたハエです。「ハエの絵」が的となり、トイレの清掃費用が8割も削減できた、という例は耳にした人も多いのではないでしょうか。
このほか、ロンドンではタバコの吸い殻ポイ捨て問題解消のため、吸い殻用のごみ箱をサッカー選手の人気投票の投票箱に見立てた取り組みがあったり(イギリスのNPO団体「hubbub」のオフィシャルサイト)、日本では「ここは自転車捨て場です」と書いた貼り紙で、放置自転車削減に効果を上げた事例もあったり、様々な場面で活用されています。みなさんも街角にあるナッジを探すと面白いかもしれません。
また、イギリス政府が税金滞納者に対して「あなたの住む地域のほとんどの人は期限内に納税しています」という趣旨の手紙を送るようにした結果、納税率が68%から83%に増加した、というインターネット記事もあり、公共政策にもナッジ理論は使われているようです。
日本政府も環境省が産学政官民連携の取り組みとして、平成29(2017)年4月から日本版ナッジ・ユニット(BEST: Behavioral Sciences Team)を始めており、ぜひ「良いナッジ」を政策に取り入れていただきたいと思います。 ここであえて「良いナッジ」と書きました。お気づきの方も多いと思いますが、ナッジによって、それほど強く意識しなくてもある一定の行動をとってしまうことがある、ということは、これを悪用することもできるということです。ナッジ理論の提唱者であるリチャード・セイラー氏は『賢い意思決定や社会的に良い行動を難しくするような「悪いナッジ」を「スラッジ(英語sludge:ヘドロ)」として、一掃すること』も訴えています。ナッジを仕掛ける場合はこのスラッジによく注意する必要がありますし、一人の消費者や市民としてもナッジが仕掛けられていることを意識し、とって良い行動か否か「賢い意思決定」ができるようになりたいものです。さて、2023年を迎えるにあたり新たな目標を掲げる人も多いかと思います。目標達成に向けた行動を促すため、みなさんは自分自身にどのようなナッジを仕掛けますか?いつか、効果のあったナッジを紹介しあうのも楽しいかもしれ ません。そんなことを想像しつつ今回はこれで筆をおきたいと思います。