社長・部長エッセイ

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【部長シリーズ第20回】農村開発部長:社会を変える

2023年09月

社会を変える

開発途上国を発展させたい。

それがこの業界で仕事をしようと思った理由でした(なぜそう思ったのかは話が長くなるので、またの機会に)。今思えば、途上国について何も知らないくせに、ずいぶんおこがましいことを考えたものです。でも、途上国の社会を経済を人を変えるのだ、自分はそれをやるのだ、という純粋な思い、というか思い込み、或いは自己暗示があったからこそ、途上国開発について何の経験も学歴もないにも関わらず、当時務めていた会社を辞めてこの世界に飛び込めたのでしょう。さて、それから27年が経ちました。私はその間、途上国の社会を経済を人を変えることができたのでしょうか。

そもそも社会を変える、とはどういうことでしょうか。

“社会変動:ある社会の構造なり秩序、あるいはその構成要素が、なんらかの内部的または外部的事情によって、部分的にか全体的に、また短期的にか長期的に変化することを意味する。・・・

出典:日本大百科全書(ニッポニカ)“

 ぼんやりしていますが、大きな話だということは分かります。大きな話ということであれば、これまで対象国の農業政策や制度改革に関わったことがあります。しかし、社会変容に至るような変化を引き起こせたかといえば、全くそんなことはありませんでした。政策や制度を変えても、社会がそれに対応するまでそれなりに時間がかかりますし、新しく作った制度が誰にも顧みられない、ということもありました。

 では27年の間、私は何も変えられなかったのでしょうか。制度・政策に関しては、何かを変えた、という手応えを感じたことはありませんでしたが、技術協力の対象となった農家の行動や生計を少しは変えられた、と思っています。もう10年ほど前に従事したパキスタンでの果樹技プロ(2012~2016年)では、果樹栽培技術の普及に取り組みました。例えば、リンゴの樹の剪定や、摘果を指導したのですが、これが結構大変でした。

 それまで農家にとってリンゴは放任栽培があたりまえ、実はできるだけ沢山付いた方が収穫が多くなると思っているわけですから。実際、これらの技術は、最初はほとんど受け入れられませんでした。しかし毎年根気よく研修を行い、デモ圃場で成果(より実が大きく、収穫量も増える)を見せることで、取り入れる農家も少しずつ増えていき、プロジェクト終了時には、66%のリンゴ農家が剪定をするようになりました。

 平行して、りんごのマーケティング改善にも取り組み、サイズが大きくなったリンゴを、首都の市場に直接卸すことで、収入を増やすこともできました。このような地道な活動により、対象農家の行動を変え、収入を増やすことができました。ただしこれはあくまで個人レベルの話であり、社会を変えた、とは言えません。ですが、これが対象地域のリンゴ農家の多数によって実践され、収入が大幅に増えたらどうでしょうか。増えた収入により、食生活が改善され、就学率が向上し、子供世代の人的資源の質が向上するかもしれません。その結果、労働需要と賃金のどちらも高い大都市圏へ出稼ぎに行く子供が増えるかもしれません。こうして、人口移動、産業構造の変化、経済発展の促進に貢献するのかもしれません。これでようやく「社会変容」のレベルまで来ました。

 詰まるところ、パキスタンの果樹技プロで社会を変えた、とは言えませんが、パキスタンの社会を変化させるための歯車の一つにはなったかも、くらいは言っても許されるでしょうか。27年前志した「途上国の社会を変える」などという大それた目標は、途上国を知れば知るほど容易ではないことが分かってきます。正直なところ、目の前にいる農家の意識を行動を変えることにも四苦八苦している状況です。でも、社会は一人一人の人間で成り立っていて、社会を変えるということは人を変えるということだとすれば、これからも一人一人の受益者に向き合って、何かを変える支援をしていきたいと思います。

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