「夢」を持つということ
KMCの職場環境として「厳しく、楽しく、夢のある」という理念を掲げています。なぜ敢えて「夢のある」なんでしょうか。それは私がこの仕事を結構長いことやってきて、「夢」を持たない限りとても長続きしない、或いはやっていたとしても当初の意欲を持続できない、大変な仕事だと感じているからです。夢が簡単に実現するなんてことは、どの業界でもあまりないことでしょうが、開発コンサルティングの現場においても、利害関係や文化や習慣の違い、保守的な人々の抵抗などに直面することが常で、その度に仕事の難しさを実感するからです。そして、夢の実現が難しければ難しいほど、敢えて夢を自覚し続けることで実現に向かう決意を新たにしたいという気持ちがあるからです。私たちは、途上国の開発に対して何らかの貢献をしたい、それも自己満足だけではなくて他人からも評価されるような、つまりクライアントや途上国の人々から喜ばれるような仕事をしたい、という大きな夢があります。きっとKMC の社員すべてがその夢を持っているんだと思いますし、だからこそKMC という会社に入ってきたのでしょう。人には、他人から邪魔されることのない夢がそれぞれあると思います。皆さんにも、より具体的に、これからああしたい、こうしたいという夢があるに違いありません。そうした夢とKMC の存在をそれぞれ違った形で関連付けていることと思います。
私としては、営利企業であることや、プロフェッショナリズムを極めようとしているKMC という組織のあり方が、社員が生き生きと夢の実現を追うことのできる職場なのか、いつも自問自答するところです。会社の夢、個人の夢、これがうまく重なって同じ方向を向いて走り始めた時、組織も個人も強くなり、そして充実したものになると思います。今は、会社も社員も、それを具体化するための「助走期間」なのだと思います。まだまだ、形が見えてくるのはこれからなんでしょう。懐古主義は嫌いですが、振り返ってみると私の夢も大きく変わってきました(と、今回はちょっと自分のことに触れることにしました)。高校時代から30 代半ばまでは、本気で、いつか数年をかけてヨットで世界一周をしようなんて考えていました。そのために高校時代にはアマチュア無線やバイクの免許を取り、大学時代はヨット部で合宿とレースに明け暮れ、会社に入ってからも昔の仲間とクルーザーを購入し、海に出ながら航海の勉強をしていました。実は、結婚したときも(この人ならその時になって文句言わないなー)という判断があったくらいです。
でも、留学してからですね、「開発」が面白くなって、もちろん仕事で元を取らなきゃという現実もあるんでしょうが、さすがに世界一周とは思わなくなりましたね。 それからやはり高校生の頃から、将来は動物の生態学者になりたくて、でも入った大学では突然の「動物学」ブームのおかげで自分が狙った学部・学科には入れず、訳も分からず農業土木を専攻するはめになり、しかしそれでもどうしても野生動物の宝庫であるタンザニアに夢を求めたくて、それで最も近道と考えた協力隊を選んだという訳です。ボランティア精神に富んだ人から見れば、不順な動機なのかもしれませんね。でも、そのときはそれなりに一途な気持ちでした。しかし、そうしてまで行ったタンザニアでは、動物を何度か見るうちにそれで気が済んでしまい、それよりも「現地の人」に興味を覚えるようになったという訳です。そして、なんだか悩みや苦労ばっかりで大して役にも立たないようなボランティア(注:あくまで私自身のことです)でいるより、伝え聞くコンサルタントの仕事振りやインパクトの大きさに関心を持つようになったのが、そもそもこの業界に入るきっかけだったように思います。
コンサルタントを名乗る今の私自身の姿を、当時は想像もしませんでしたが、こうして見るといつも「開発」が意識の底にあり、それによって身の振り方が自然に収束してきたと言えるのかもしれません。これは自分でもちょっと驚くことですね。ふーん、自分にとって「開発」、「コンサルタント」ってそんなに魅力のあることだったんだ、という無意識の部分を振り返ってみて初めて知ったことは。自分のことをこうして書いたのは、人の持つ「夢」は変わるのかもしれない、でも常に「夢」を持って、その時の「夢」に向かって精一杯努力していきましょう、と呼びかけたかったからです。皆さんに対しては、KMC の社員として「コンサルティング業にコミットしていること」、「プロフェッショナルであること」、「自己満足ではなくクライアントの満足を求めること」等々いくつもの要求をしています。私自身の過去を考えると(よく言うなー)という声が聞こえてきそうですね。でもそうした過去を積み上げてきた結果、今の私自身が本気で求めているものがそこにあるので、これもまた自然なことなんだろうと解釈しています。
私がKMCで目指しているのは、言ってみれば"美しい知性で輝いているコンサルタントの姿"であり、そうしたコンサルタントの集まりです。私が想い描くプロのコンサルタントとは、仕事を通じて人に夢や希望を与えることのできる存在です。我々はリサーチャーでもなければ、学者でもありません。コンサルタントには、相手が変革を起こすまで行動することが求められています。相手に夢や期待を持ってもらわなければ、外部者である我々が人や組織を動かすことなんかとてもできません。そんなことを考えているKMC という組織の中で、皆さんそれぞれの夢をどう生かしていけるのか、生かすためには会社や社員がどう行動しなければならないのか、何をしていかなければならないのか、これから大いに考え、議論していきましょう。