社長・部長エッセイ

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オニババとペンギンと企業

2011年11月
KMC10周年という節目でもあり、最近は、これからの10年間をどうしていこうか折りに触れてよく考えます。売上アップとか社員数アップという目標もありますが、それよりも、ひと味違ったユニークさにあふれた会社にしたい、それで存在感を出したい、そんな気持ちを強く持っています。今回は、最近出会った3冊の本の紹介を兼ねながらKMCの行方、あり方を考えます。 まずは「オニババ化する女たち」(三砂ちずる著、光文社新書)。これぞ、ジェンダーイシューとは何かを示唆してくれる本でした。実は、KMCが生理用品事業の支援をすることになるかもしれないということで、なじみがなくて困った!どうしようかなあと思っていた私に妻が勧めてくれたのがきっかけで読んだ本です。筆者はリプロダクティブヘルス、疫学の専門家で、執筆当時(2005年)は大学の教授。女性が「女性性」にもっと正面から向き合い、女であることに誇りや喜びを持つことがいかに大切であるかが描かれています。女であること、それはつまり、出産であり、生殖行為であり、生理です。ともすれば「負担」、「マイナス」にとらえてしまわれがちだけど、それをもっと前向きにとらえて男も周りもそれをきちんとリスペクトしましょう、それができていない今の社会では、もうすぐ女がみんなオニババ化しちゃうよ、という警告本でもあります。 この本は、途上国の支援のあり方についても造詣が深い本で、とても感心させられます。例えば、いわゆる「妊産婦死亡率」だけでは、出産を通じた女性のヘルスは測れない。それは国が豊かになって始めて使える指標だと指摘します。だからもっと根本的な「質」、つまり出産時の体験や、それがその後の母親と子供との関係に与える影響などを測らなくてはならない。今は、(開発の成果として)ほとんど病院で管理されながら出産しているが、それが果たして体験として女性に喜びを与えているのか。薬漬け、切開、注射が当たり前になってしまい、それが逆に苦痛を与えているのではないか。若い女性にも出産イコール辛いものというネガティブな印象を与えているのではないのか。だから出生率が下がっているのではないのか。それなら、もっと自然に産婆さんが取り上げた出産に戻すべきではないのか。その時女性が感じる宇宙とつながっているような感じ、良かったと思う気持ちをもっと大事にすべきではないか。まさに、「伝統なのか開発なのか」の選択ですね。専門家としてブラジルに約10年、そんなことを考え、実践してきたようです。そして、出産時のケア。管理の行き届いた病院のマニュアルベースの出産ではなく、一人一人の受け手と一人一人のケアテーカーが向き合っていくことこそが人間的なケアだと指摘します。これ、何も出産に限らず農業普及だって同じことですよね。 “国際開発とジェンダー”、私にとっては、女性の水くみ労働、家事・育児労働の重さから始まって、教育レベル、栄養レベル、健康レベル、何らかの集会への参加レベルなどの相対的な低さ、果てはDV、レイプの被害者であることばかりがことさらに強調されている印象を受けます。つまり、男に比べて「女はこれだけかわいそう」という論点が出発点になることが多い。せっかくWIDから抜け出したはずなのに実は何も変わっていないように思える。開発の文脈で考えるのであれば、本当は、その国の文化習慣や歴史の中で、男性性、女性性というものをもっと絶対値として見るべきであって、肉体的、精神的、社会的に本来もっている役割や機能を理解し、かつ前向きにとらえないとならないのになあ、と思っていたわけですが、まさにそれを鮮やかに気づかせてくれる本です。開発とは、「ポテンシャルをどう伸ばしていくのかを見つけること」だと思っていますので、男も女も(何でもかんでも数の上で比較して)平等だ、保護すべきだ、問題だからこれを変えろ、というだけではまったく物足りない。本質的な役割や機能は簡単には変えることができない、だからこそ昔から長く続いてきたわけです。外からの、しかも一過性の価値観の押しつけではなく、本来の意味をもっと尊重して、その絶対値をよく見て、その上で謙虚にかつ前向きにいかにそれを伸ばすかを考える、それが開発ではないかと思います。そんな一歩も二歩も進んだ開発を進めていくことができるのがKMC、でありたいと思います。 さて次は「ペンギン夫婦がつくった石垣島ラー油のはなし」(辺銀愛理著、マガジンハウス)。今、日本で最も入手が難しいといわれるラー油を創った辺銀愛理さんが書いた本です。この方、どうやらかなり型破りなところもあるが実はアメリカ留学、学習院大、リクルート、など、エリートコースを歩んできた人なんですね。好奇心が強くて一つのものを極めようとする、何かいつも工夫してつくり出そうとしている、地元の食材に注目する、人と人のつながりをとても大切にする、そしてあくせくせずに自分の生きたいように生きる、そんな人柄が見えてきます。商売、やっぱり自分が好きなこと、自分が得意とする所から出発することが良い。“売れそう”ではなくて、“楽しそう”、“おいしそう”、から始めたビジネス。ブランド戦略なんて関係ない、と言い切ります。そう、これが、KMCが支援をしていきたい企業家の基本的な姿なんですね。つまり、その人自身が本当にやりたいと思っていることをやっている人を支援する、そこにはその人のコミットメント、つまり「魂」があるから、というのがその理由です。そんな人は支援が必要ない?いやいやポテンシャルを持っているけど支援を待っている人はたくさんいます。そんな人たちを見つけてきて、こちらも「魂」でサポートしていければと考えています。 愛理さんは元々和紙に興味を惹かれ、夫婦で石垣島に移住。それから普段作っていたラー油を何かのイベントに出品したそうです。それが2000年の春。それがきっかけとなり、その年の冬には雑誌に取り上げられて大ブレーク。TVにも出たらしい。これだけの短期間で成し遂げることができたのは結局、味(クオリティ)が良かった、そしてこれまでにないオリジナリティがあったということですよね。これ企業としてKMCにとっても大事なことです。一つ一つの食材にこだわり、作り方にこだわり、パッケージにこだわり、という究極のこだわり。だから即、口コミで広まった。だからすごい。その時にちょうど辺銀食堂をオープンしたそうですが、子供を授かったので開業後3年弱で4年間の休業。でもその間もラー油商売は順調に進んでいたのだからこれもまたすごい。 そして、もう一つ。ここのラー油は製造からパッケージングまですべて手作りだそうですが、その工場はスーパーフレックス制。仕事にはいつ来ても良い。好きなときに休む。ルールはただ一つ「ストレスがない職場」、もうみんな大人なんだからそれぞれどうしたら良いか自分で考えて、ということらしいです。周りへのケアがあってはじめて成り立つシステム。これも今KMCが目指している職場環境なんだなあと強く共鳴しました。企業としても、これから益々楽しみな“石ラー”の辺銀食堂です(ちなみに辺銀食堂はお勧めです、石垣島にいくことがあったら是非試してみてください)。 そしてもう1冊は「世界一大きな問題のシンプルな解き方」(ポールポラック著、英治出版)。大学院生に「社会開発」について講義を、という依頼を受けたので試しに読んでみたのですが、これから10周年記念事業で中小零細企業を支援しようと考えている今のタイミングにまさにぴったりの本でした。 農業、小規模灌漑農家の実践例をベースに話しが進みますが、すでにこんなことを考え実践している人がいたんだなあ、と感心してしまいます。「貧困という複雑な問題に対する、最も重要で低コストで強力な解決方法とは、貧しい人々が収入を増やそうとするのに手を貸すことだ」。ここなんですよね、常々アピールしたいと思っていることは。 ODAの世界では、ともすればビジネスは悪、ととらえられがち。シンド畜産でもマスタープランの中に「企業家支援」というワードを入れるか入れないかでかなりもめました(最後は我々の主張を受け入れてもらいましたが)。でも、著者はビジネスしか信じない。寄付(慈善)はダメ、もっと民の持つ力を信じましょう、それをサポートしていきましょう、でもそのためには現地の人々の目線でしっかりアイデア練らないとダメですよ、と主張します。「貧しい人たちのほぼ全員がすでにタフで不屈でたくましい起業家である。だから彼らは、自分たちの事業からもっと利益を獲得する方法を見つければ良い。(中略)貧しい顧客向けの新製品やサービスは、現在のデザイン手法を変革し、ひたすらに低価格を追求して初めて生み出せる」ということです。 著者のODAアレルギーなところや、BOPビジネスを提唱するプラハラードへの批判などは差し引いても、この本を読むと、KMCとしては企業支援の基本的なノウハウを蓄積することももちろんですが、もっと実践知として、具体的にどんなアイデア、どんなデザインを途上国の人々に提供するのかを考え抜いていく(それは低価格化であり小型化)、そうした考え、提供する一連のプロセスに慣れていく、ということがとても重要だということに気づかせてくれます。基本的な企業支援ノウハウはある程度やれば誰にでも身につけてしまう。でもこうして実際に「使える」アイデアを産み出せるようなコンサルタントは、とてもかけがえのない存在、ユニークな存在になると思いました。これからKMCとして実践を積み重ねて、現場で成果を出せるコンサルタントを目指していくことになると思いますが、おそらくそれがこれからの10年間の最も大きな変化なのかもしれないなあ、と思いつつ。
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