社長・部長エッセイ

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【部長シリーズ第1回】地域産業開発部長:本質とは考え続けるもの

2017年11月
今号より、栄えあるKMC通信の巻頭言を4人の部長が持ち回りで書くこととなりました。これまでは、「お、岡部さんはこんなこと考えているんだー。へー」などと、気楽な立場だったのですが、いきなりない知恵を絞らされる羽目になっています。 しかもテーマが「本質とは」です。これは簡単ではないでしょう。そもそもここに唯一絶対の解がないからこそ、皆「本質の追求」で困っているのです。 ちなみに辞書で「本質」を調べると、以下のように書いてあります。 1. 物事の根本的な性質・要素。そのものの、本来の姿。 2. 哲学で、存在するものの基底・本性をなすもの。 3. 論理学で、思惟の対象を定義する諸限定。類・種のごとき普遍をさす。→実体 →属性 →本体 ついでにグーグルで、「本質」を含んだ記事を検索すると、以下のような記事がでてきました。 ◆日本の反論は「本質避ける」 共謀罪で国連報告者 ◆「私利私欲の切り捨て、冒頭解散の本質」 民進・小西氏 ◆捕鯨問題の本質はどこにあるのか 脳科学者・茂木健一郎氏と映画監督・佐々木芽生氏が大激論 要するに「本当に大切なこと」、「問われるべきこと」といったことが、「本質」といえると思います。では、我々の業務で「本質を追求」するとはどういうことなのでしょうか? 「本質の追求」は、調査の先にある 「本質の追求」の観点で、すぐに思いつく、やってはいけないことは、「ただ調べている」「知っているだけで満足する」ことです。さる案件で一緒だった長期専門家は、内部事情に詳しく、制度やら政策やらにも詳しいですが、これらの情報や知識をベースにCP機関に働きかけるアクションは皆無です。こちらが何か新しいことをしようとすると止められます。本人曰く、「そんなことしても、こちらの人は動きません」。調べることに膨大な時間を費やしているはずなのに、情報は「成し遂げる」べきことには使われておらず、会うたびに「何しにここに来られたのだろう」と感じてしまいます。コンサルタントは、情報や知見をベースに問題を解決するなどアクションを起こすことが仕事です。ただ調べているだけで満足しているようでは、「本質の追求」とは言えません。 「完全さの追求」は、「本質の追求」ではない 当方がもう一つ「本質的でない」と感じるのは、必要以上に正確さや緻密さを極めようとすることです。時にすべてを調べれば、答えがわかるかのように、細かい情報を集めている人がいますが、情報だけを集めても答えはありません。集めた情報が、与えられたテーマに及ぼす含意を読み解く知的な働きかけをしない限り、情報は情報でしかないのです。最近読んだ「問われる日本企業の完全主義(日本経済新聞 2017年10月27日掲載)」という記事では、日本企業が細部の正確さや品質を過度に追求した結果、国際的なイノベーションの波から置き去りにされているだけでなく、品質への信頼さえも失いつつある現状を指摘しています。完璧さを追求しすぎて本質を忘れることは、「本質の追求」で日本人が陥りがちな弱点と言えるでしょう。もちろん「神は細部に宿る」というように、本質に関わる緻密さは必要ですが、緻密さだけを追求すると道を誤ります。コンサルタントである我々も限られた時間で必要十分な情報を収集し、そこから「本質」を見抜く能力を養わないと、生産性や競争力の観点で競合相手から取り残される結果になりかねません。顧客は単なる情報ではなく、本質をとらえた提案や解決策にこそ、高い対価を支払ってくれるのだということを肝に銘じておく必要があります。 「本質」は、課題により、人により違うもの しかし、「本質の追求」で本当に難しいことは、人によって「本当に大切なこと」や「問われるべき」、すなわち「本質」と考えることが違うということにあると思います。また「本質」は状況によって変わります。例えば、イスラム国の問題は当初は中東情勢や越境テロの問題であったのが、その後難民問題に発展しました。これは、長期間のプロジェクトのように、関わる人、課題、リソースが多岐にわたり、複雑になればなるほど、「本質の追求」が難しくなることを示唆しています。先の合宿でも、各人が「本質」と考えるキーワードをピックアップしたセッションでは、「正直」「思いやり」「長期的」「バランス」「確信」「謙虚」とそのバラエティの多さに驚かされました。これはどれかが正しく、どれかが間違っているということではなく、課題が異なると本質が変わり、同じ課題に対しても人により本質と考えることが異なるという、「本質」の多面性を表しているからにほかなりません。 考え続けるしかない KMCの社員として成し遂げるべきことは「地域の人々が幸福を感じられるような社会」を、「開発のプロフェッショナル」として、現地の人々やクライアントの「ともに歩むパートナー」として実現することです。しかし、「幸福」って何なんでしょうか?それこそ、地域により、人により、置かれた状況により、答えは千差万別です。我々は、誰の、どんな幸福を目指すのか、そしてそれをどのように実現するのか、それぞれの業務において、関係者とともに答えを見つけていかなければいけません。これを文化も、歴史も、自然環境も異なる異国の人々と一緒にやらなければばらないから大変です。同じような価値観を共有しているはずのKMC社員の間でさえ、「本質」の理解にあれほどの差があるのです。 だからこそ、自分はわかっていると慢心せずに考え続けることが重要です。自分が考える本質も、関係者が理解し、行動に移してくれなければ、現状を変えることにはつながりません。本質を追求するコンサルタントとは、知識や情報収集能力に加えて、深く、そして考え続けられる高度な思考能力、人の意見を聞く姿勢、本質で妥協せずに自分の考えを修正できる柔軟性、相手を説得し、合意を形成できるコミュニケーション能力を兼ね備えた人物といえるのではないでしょうか? こうやって書いてみて、ますます「本質の追求」は難しいと感じます。同時に、追求できた時の喜びも大きく、だからこそ頑張れるのだろうとも思います。私もまだまだ迷いいっぱいですが、皆様とも議論しつつ、本質を追求し続けたいと考えています。
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