エマージング・リージョン・レポート
海外市場と新たなビジネス機会を探るKMCリサーチシリーズ
自動車整備業における外国人社員の育成・戦力化 ~内発的動機付け~

1.はじめに
エマージング・リージョン・レポート第1号では、自動車整備業において外国人社員の育成と戦力化を進める上で不可欠なキャリアパスと評価制度について議論した。社員に対する給与や待遇の改善、昇進を通じた「外からの報酬」によって引き出されるモチベーションを「外発的動機」という。ただ、効果的な人材育成を図る上でこの「外発的動機付け」だけでは十分とは言えない。本号ではより主体的・持続的なモチベーションにつながる「内発的動機付け」に焦点を当てつつ、外国人社員の育成と戦力化につながる取組を提案する。
2.内発的動機付けとは
米国ロチェスター大学の心理学者エドワード・L・デシは、内発的動機付けに関する研究を進め、自律的な決定こそがモチベーション向上につながっていくという「自己決定理論」を提唱した。「内発的動機」は、人の内面から湧き上がってくる報酬であり、仕事における「達成感」や「充実感」、「成長実感」などが該当する。デシは、外から与えられる動機付けは、創造性や責任感、持続性といった点で、内発的動機付けには及ばないことを実証しつつ、内発的動機付けにつながる欲求を自律性・有能性・関係性の3つに整理した1。
- 自律性:自ら行動を決め、主体的に動きたいという欲求。他者に「やらされる」のではなく、自ら「やる」。自ら始め、自ら終わりを決められる。
- 有能性:自分は「できる」と感じられることへの欲求。そのために自発的に知識を深め、新しい技能を習得するために修練する。
- 関係性:他人と良い関係を築きたいという欲求。友情や親密な関係を築きたい、居心地のいい集団に属したい、社会に貢献したいという欲求が含まれる。
1 エドワード・デシ&リチャード・フラスト(著)、桜井茂男(訳)(1999)人を伸ばす力―内発と自律のすすめ、新曜社
3.自動車整備業では?
自動車整備業で「内発的動機付け」を高める場合、①技能が伸びていると実感する(有能性)、②仕事を任されている(自律性)、③仲間や会社から認められている(関係性)、④仕事の意味を感じる(それらの総合的な結果)という4点を組み合わせることが重要である。特に外国人整備士については、「待遇改善」や「生活支援」だけで定着させようとするのではなく、「この会社で技能を身につければ将来こうなれる」というキャリア展望を示すことで、技能習得や仕事の意義を本人自身の将来目標と結び付け、持続的な内発的動機付けを促す。その結果、職場への定着にもつながることが期待される2。
2 以下サイトでは、外国人材にキャリアプランを考えてもらうための取組や外国人財(技能実習生・特定技能)のモチベーションを維持するための具体的な取組が紹介されている。特に鈴木自動車の事例(後者)は、外国人整備士を雇用する側のあり方を考える上で大変参考になる。 https://www.jica.go.jp/activities/issues/urban/mechanic/1532335_2024.html
https://www.youtube.com/watch?v=Sc1unGQwkkI
技能の見える化とキャリア・評価制度
前号で議論したキャリア・評価制度は社員の自律性・有能性を段階的に高めていく上での基盤となる。「内発的動機付けを重視する=給与を上げなくてもよい」ということではない。給与が低い、残業が多い、休暇が取りにくい、住宅環境が悪い、相談できる人がいない、外国人だけ昇進できないという状態で、「仕事のやりがいを感じましょう」と言っても効果はない。内発的動機付けの基本的なメカニズムは日本人・外国人に共通するが、まず①「不満を減らす」(適正な賃金、労働時間、住宅・生活支援、日本語支援、相談窓口、公平な処遇)ことに取り組んだ上で、②「やる気を高める」(技能向上、資格取得、仕事の信任、表彰・承認、キャリアパスの提示、後輩指導)という2段階のアプローチをとることが現実的である。
社員の内発的動機付けを促進する上で、必要とされる技能を「見える化」することは大変有効である。例えば、「ブレーキ整備について、①作業手順を理解できる、②安全確認ができる、③一人で作業できる、④作業結果を説明できる」というように、技能の到達基準を段階的に具体化する。整備士本人が、「去年できなかった仕事が、今は一人でできる」と実感できることが「有能感」に直結するからだ。
外国人整備士については、日本語能力が不十分だと、在留資格取得、自動車整備関連資格取得、職務配分などの面においても不利になり、自律性や有能性の涵養・発揮を妨げることが多い。ゆえに、日本語能力の向上と整備技能の向上を一体的に支援することが効果的である。外国人社員に対して、「日本語が十分ではないから、ずっと補助作業」という状態を続けると、技能が伸びず、仕事への誇りも生まれにくくなる。自動車整備業における日本語学習教材3等を利用しつつ、業務時間の一部に外国人社員向け日本語学習教室を設定するなど、職場全体で日本語習得を支援することが望ましい。技術用語だけでなく方言や語尾変化、ハイコンテクストな言葉4など、日本人社員が通常使う日本語が分かりにくいことがコミュニケーションの障害となることも多い。そこで日本人社員に対して「やさしい日本語5」講座を開いて、日本人社員からの発信を外国人社員に伝わりやすくするほか、言語だけに頼らず写真・動画・図解を積極的に活用してコミュニケーションをとるとよい。外国人に対して日本語習得を促すだけではなく、周囲の日本人社員、会社組織も最適なコミュニケーション方法を模索することで、外国人社員の日本語能力が発展途上であっても技能を伸ばせる職場をつくるという発想が重要である。
3 以下のサイトで、外国人材向け自動車整備分野の教材(多言語対応)やひらがなルビ付きの自動車整備資格過去問等が入手できる。https://www.jica.go.jp/activities/issues/transport/mechanic/health_safety_text/index.html
4 ハイコンテクストな言葉とは、背景や文脈、お互いの共通理解や空気を読み取る必要がある表現のことである。例えば「大丈夫です」が状況によって「はい(要りません/結構です)」と「はい(肯定/OK)」のどちらの意味にもなる。「検討します」はビジネスシーンにおいて、「見送り(お断り)」を意味することが多い婉曲的な表現だ。このように日本では「言わなくてもわかる」ことを前提とした独特な言葉や表現が多く使われるが、外国人には理解されにくいことが多い。
5 「やさしい日本語」では簡単な言い回し(「土足厳禁」 →「 靴(くつ)を脱(ぬ)いでください」)の使用や言い方の統一(「~してや」、「~してな」、「~やっといて」 → 「~してください」)が提唱されている。以下のサイトを参考にするとよい。https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/92484001.html
https://tabunka.tokyo-tsunagari.or.jp/yasanichi/about.html
任せる仕事を増やす
並行して、一定の技能を習得したら、小さな仕事から本人に任せる仕組みを作り「自律性」を強化する。例えば「①オイル交換を任せる→②タイヤ交換を任せる→③ブレーキ整備を任せる→④車検整備の一工程を任せる→⑤後輩外国人の指導を任せる」という具合である。単に「作業を与える」のではなく、「あなたに任せます」と明確に伝えることが肝要である。外国人整備士Aさんがタイヤ交換を習得したら、「来月からタイヤ交換についてはAさんを担当者にします。後輩が来たらAさんが教えてください。」とする。これによって、作業者 → 技能者 → 指導者という役割の変化が生まれ、「自律性」と「有能感」の両方を高める。外国人社員が後輩を教える側になると、「自分はこの会社で必要とされている」という感覚も強くなる。
「整備士としての誇り」をつくる――顧客・地域との接点を増やす
工場内で、「車を預かる → 整備する → 納車する」だけを繰り返していると、若手や外国人社員は「自分の仕事が誰の役に立ったのか」を感じにくい。自動車整備は、「人の役に立っていること」が実感しやすい仕事であるため、整備士が顧客や地域と接する機会を意識的に設け、「関係性」を強化することが有効である。例えば、
- 整備完了後に顧客へ作業内容を説明する
- 整備士が「今回交換した部品」を顧客に見せる
- 地域の小中学生向け整備工場見学を実施する
- 外国人整備士にも見学者への説明を担当してもらう
- 「今月のGood Mechanic」を社内で表彰する
- 顧客からの感謝の声を朝礼で共有する
といった取り組みを進める。これは外国人社員には特に有効である。例えば外国人整備士Aさんが、「この車は私が整備しました」と顧客に説明し、「ありがとう。安心して運転できます」と感謝されれば、給与とは別の強い報酬になる。会社側も、「Aさんが担当した整備について、お客様からこのようなコメントをいただきました」と積極的に本人へ伝えることが望ましい。こうした「仕事の社会的意味を実感する機会」が、内発的動機付けには非常に重要である。

4.外国人整備士キャリア・ジャーニー
「働く」→「技能を身につける」→「仕事を任される」→「人を教える」→「キャリアアップする」というストーリーを描き、それを実現するための仕組みづくりを行うことが、外国人社員の定着に重要である。自動車整備分野でも、外国人材のモチベーション維持やキャリア指向型育成が重要なテーマとして議論されている6。「頑張れば技能が上がる」だけではなく、
技能が上がる → 任される仕事が増える → 周囲から認められる → 後輩を教える →次のキャリアに進める
という循環をつくることが重要である。これは外国人だけを特別扱いする制度ではなく、日本人・外国人の双方に適用できる「技能者として成長できる職場」の仕組みそのものでもある。外国人にとって魅力的な職場は同時に若手にとっても、女性にとっても、シニアにとっても魅力的な職場なのである7。
6 外国人整備士がどのようなキャリアプランを描いて来日するのか、また来日後は実際どのようなキャリアを歩んでいるのか、以下のサイトではモデルケースを動画で紹介している。また外国人材に向けて、自動車整備職分野でのキャリアの積み方や魅力を伝える動画等も入手できる。https://www.jica.go.jp/activities/issues/transport/mechanic/pre_kaigai/1531575_51635.html
以下のチェングロース社の事例では、目先の給料の多寡にこだわる「出稼ぎ志向人材」ではなくキャリアデザイン優先で判断する「キャリア志向人材」を確保することが重要だという。送り出し国の教育機関(進路指導)との連携も重要な要素である。https://www.jica.go.jp/activities/issues/transport/mechanic/health_safety_text/n_files/pdf5.pdf
自動車整備分野ではないものの、海外現地法人の幹部社員候補として、その国から高度人材を戦略的に受け入れ育成している企業の事例もある。https://www.jetro.go.jp/ext_images/hrportal/region/tohoku/pdf/19.pdf
https://www.jetro.go.jp/ext_images/hrportal/region/tohoku/pdf/10.pdf
7 国土交通省の「自動車整備士等の働きやすい・働きがいのある職場づくりガイドライン」は、自動車整備業において外国人社員のみならず、若手・女性社員の育成や定着を進める上でも大変参考になる。https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001895313.pdf
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